ばね股症候群という名前は、皆さんにとってあまり馴染みのない言葉かもしれません。

しかし、股関節周辺の動作に伴う引っ掛かり感や「ポキッ」という音が鳴る現象と聞くと、心当たりがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回は運動している人に多く見られるばね股症候群、別名「弾発股」についてご紹介していきます。

ばね股症候群とは?

ばね股症候群(Snapping Hip Syndrome:SHS)とは、股関節の動きに伴う引っ掛かり感や「ポキッ」という音を特徴とする筋骨格系疾患で、関節内型と関節外型に分類されます。

関節内型

関節内型ではポキッとなる音が股関節前部で音が鳴り、腸腰筋という股関節の奥にある筋肉が硬くなってしまっていることが多いです。

関節外型

関節外型ではポキッとなる音が股関節の外側部分で音が鳴り、腸脛靭帯という太もも外側にある筋肉が硬くなってしまっていることが多いです。

ばね股症候群の有病率は人口の5~10%であり、15~40歳の女性に最も多く見られ、反復動作と関連している事が多い為、ランニングアスリートやダンサーなどの割合が高く、特に若年層に多いと言われています。

股関節は違和感が起きやすい?

股関節は球関節といって丸い足の骨の先端を骨盤が受け皿となり支えています。そのため、股関節は屈曲と伸展、外転と内転、外旋と内旋という6つの運動方向を持つほど大きく動きます。

前方向の動きついては腸腰筋と大腿直筋、後ろ方向の動きについては大臀筋とハムストリングによって行われます。横方向の動きは股関節外転筋群(中殿筋と小殿筋)と股関節内転筋群(大内転筋、長内転筋、短内転筋、薄筋、恥骨筋)によって行われます。回す動きは主に腸脛靭帯、股関節外旋筋群、中殿筋(前部と後部)、小殿筋(前部)によって行われます。

このように股関節は大きく動く分、多くの筋肉が動きに関わっているので不調が出やすい部位でもあります。

ばね股症候群はどんな症状?

関節内型と関節外型の場合も、最初に起こる違和感は、動いた時に痛みを伴わない引っ掛かりや、ポキッ、ガリガリという音です。しかし、これがだんだんと痛みへと変わっていくのが特徴です。

ばね股症候群は急に痛くなることは滅多になく、少しの音からはじまり時間経過とともに痛みが現れてきます。

関節内型の痛む時

  • 立ったり座ったり
  • 車から降りる時
  • 走ったり歩き始め

関節内型の場合は、股関節が深く曲がった時や股関節を回した時、違和感が生じ、日常的な動作としては、立ったり座ったり、ランニングなどで引っ掛かりや異音を感じることがあります。

これは主に、股関節の奥にある腸腰筋という筋肉の腱が腸恥隆起、股関節包前部、大腿骨頭、腸骨大腿靭帯など股関節周りにある骨や靭帯などを通過する際に引っかかる事によって起きます。

関節外型の痛む時

  • 階段登りなど足を上げた時
  • ゴルフなど回す動作
  • 立って靴下を履く

主に股関節を曲げた時や身体を回す動作で違和感が生まれます。

これは腸脛靭帯または大臀筋の腱が足の骨をを通過する際に引っかかって生じるか、回旋動作中にハムストリングス近位部が坐骨結節を通過する際に亜脱臼する事によって生じます。

痛い股関節へのケアの方法

ばね股症候群は関節内型・関節外型どちらも、痛みを伴っている筋肉やその周りの筋肉や靭帯が硬くなっている場合はほとんどです。

関節内型の場合は主に腸腰筋という筋肉が原因な場合が多いので、腸腰筋や股関節前部の筋を対象とした筋膜リリースがおすすめです。関節外型の場合は、大臀筋、大腿筋膜張筋、腸脛靭帯複合体を対象とする筋膜リリースがおすすめです。

その他太ももの後ろや、お尻周り、内ももにも原因がある可能性があるため上記の筋膜リリースでも解消しない場合は、筋膜リリースを行う部位を増やすのが良いでしょう。

おすすめの筋膜リリースの方法

筋膜リリースを行うと痛みのが軽減しやすいので、おすすめの方法を関節内型・関節外型どちらも紹介します。
痛みを軽減したい方は、この筋膜リリースを毎日入浴後など身体が温まっている状態で行うことからスタートしていきましょう。

フォームローラーエクササイズは、1分間×3セット(休息時間30秒)行う事によって、股関節の屈曲と伸展の際の関節可動域を増加させることが示されている。

Bushell JE, Dawson SM, Webster MM.
Clinical relevance of foam rolling on hip extention angle in a functional lunge position.他

フォームローラーによる可動域改善は多くの研究によって証明されている為、大変おすすめなセルフケアの方法です。

関節内型タイプのやり方

  • コマネチゾーン

痛みのある股関節の前側にフォームローラーを当てます。腰骨よりも内側や腰骨の下あたりなど硬く痛みのある部位を探すように当てます。

  • 太もも前側

コマネチゾーンの形からフォームローラーを太もも前側に移動させて当てます。当てる位置を上下に移動させながら硬く痛みのある部位をじっくりと当てます。

関節外型タイプのやり方

  • 太もも横

上の画像の形で太もも横に当てます。お尻の横から膝の上まで徐々にずらしながら全体的にじっくり当てるようにしましょう。

おすすめのストレッチの方法

筋膜リリースでほぐした後は、ストレッチを行う事で更に動きやすく痛みが生じづらくなります。

フォームローラーエクササイズによるセルフ筋膜リリースと動的ウォームアップを組み合わせて行うと、標準的なウォームアップよりも、ばね股症候群のクライアントには効果的である可能性がある。

Healey KC, Hatfield DL, Blanpied P, Dorfman LR, Riebe D.
The effects of myofascial release with form rolling on performance.他

そのためのストレッチは静的ストレッチが有効です。静的ストレッチとはストレッチを感じるポーズで停止し、じっくりと対象の筋肉を伸ばすストレッチ方法です。

どのストレッチも30秒×2セットを目標に痛みのない範囲で、呼吸を止めずに行いましょう。

関節内型タイプのやり方

  • 方膝立ちストレッチ

上の画像の形を作ったら、お腹を凹ませる意識を持つことで、股関節の前側をストレッチします。
骨盤や背骨と足の骨を結んでいるので、腰を反ってしまうと上手にストレッチができなくなるので注意が必要です。

関節外型タイプのやり方

  • おしりのストレッチ

上記の形でおしりのストレッチを感じない場合は、身体の下にある曲げている膝の位置をストレッチを感じる位置に移動させてみましょう。

股関節の痛みに効くおすすめ筋トレ

普段筋力トレーニングを行っていなかったり、運動不足の場合は筋力低下も大きな原因の一つです。股関節から体幹部の筋トレを行うことで痛みの起きづらい身体を作ることができます。

関節内型タイプの方は下腹部や太ももの後ろ、おしりの筋肉のトレーニングが効果的です。
関節外型タイプの方はお尻の横のトレーニングが効果的です。

どの種目も10回2セットを目標に、どこの筋肉を使っているかを意識しながら行いましょう。

関節内型タイプのやり方

  • 足上げ腹筋

両足の上げ下げ、もしくは画像の形から片足ずつ上げ下げなど体力に合わせて行ってみましょう。

  • ヒップリフト

仰向けに寝て両膝を曲げた状態からお尻を高くあげ、お尻や太ももの後ろの筋肉を鍛えます。
画像のように肩から膝までが直線上になるのが理想的です。

関節外型タイプのやり方

  • サイドレッグレイズ

骨盤と足の骨を結んでいる筋肉なので、足を上げた際に骨盤が動かないように注意しておこなってみましょう。
おしりの横が使われている感覚を意識。

  • クラムシェル

骨盤と足の骨を結んでいる筋肉なので、足を上げた際に骨盤が後ろに倒れないように注意しておこなってみましょう。
おしりの横が使われている感覚を意識。

トレーニング指導を受ける場合

ばね股症候群にとって筋膜リリースやストレッチ、筋トレはとても効果的です。そのために近くのスポーツクラブやトレーニングジムで指導を受けるのも良い選択の一つです。

指導を受ける前に「その指導があっているのか」「指導者には知識があるのか」「質問に的確に答えられるか」など指標を持っておく事が重要です。

ばね股症候群のプログラムとして、ARRESTモデルと呼ばれるものがあります。

ARRESTモデル

・ARRESTモデルのAは、疼痛を伴う動作を回避する事(Avoid)を表します。どのエクササイズ動作が痛みをもたらすか見極め、症状の増悪や再発を避けるために動作制限を設ける必要があります。

・ARRESTの1つ目のRは、軟部組織の可動性を回復する事(Restore)です。
関与する構造に対するストレッチとセルフ筋膜リリースが最も効果的であると考えられます。

・ARRESTモデルの2つ目のRは、股関節と骨盤周囲の筋群の適切な筋力を回復すること(Restore)を表します。
筋力と持久力を測定し、動作パターンを評価するテスト(FMSなど)を実施して、筋力の低下があるかどうかを見極めると良いでしょう。
筋力低下が見られた場合は、その筋力を高め回復させるようなトレーニングの実施が必要となります。

・ARRESTモデルのEは、再発を避ける方法を指導する(Educate)ことを指します。
再発の徴候、再発を避けるためのエクササイズ、適切なウォームアップとクールダウンの方法をクライアントに指導することです。

・ARRESTモデルのSは、測定可能な回復目標を定めること(Set)です。
目標は客観的で測定可能なもので、現在の体力と機能的能力を考慮したものでなければなりません。
受傷時には運動量が減る事が多いが、これは当然体力を低下させるため、受傷前の体力状態戻るにはより多くの時間が必要になります。

・ARRESTモデルのTは、中心となる運動プログラムを自分でも出来るように教える(Teach)事を指します。

いまの股関節がどのような状態で、どのようなプロセスでトレーニングを行い、どのようにセルフケアを行うか。しっかりと提示してくれる指導者かどうか判断の一つとして覚えておいて損はないです。

このARRESTモデルは、ばね股症候群の手術を行わない保存療法の為のプログラムデザインする際にのガイドラインとして助けになるでしょう。

まとめ

ばね股症候群は、一般的に反復動作によって引き起こされ、アスリートや運動する人々、そして一般の方にも広くみられる疾患です。
罹患してしまい、症状の悪化を軽減させるためには、股関節の基本的な構造、ばね股症候群の特徴的な症状、障害のメカニズム、保存療法、トレーニング方法を理解しておくことが必要です。
保存療法には、マッサージ、ストレッチ、フォームローラーエクササイズ、ストレングスエクササイズなどの様々な方策があります。
ご自身やクライアントに合わせた方策を見極めて実施する事が重要です。

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